南米ボリビア―ワイナポトシ登山

DSC01279.jpg南米ボリビアは一般の旅行者にはあまりなじみの無い国だがその首都ラパスは世界最高所の首都として有名。6000級のアンデスの山々を手近に控え、ガイド登山によるコストも安いため欧米人トレッカーにも人気だ。その中でも最も人気があるのがワイナポトシ(6088m)。難易度、登山日数とそれに伴うコストが少ない事が人気の理由だ。初の6,000級本格登山にチャレンジしてみた。(2012/06/28~30)

 


ボリビアの首都ラパスは特に欧米人トレッカーの間では登山天国としても有名だ。6000級のアンデスの山々を手近に控え、ガイド登山によるコストも安いのが人気の所以だろう。
その中でも最も人気があるのがワイナポトシ(6088m)。難易度、登山日数とそれに伴うコストが少ない事が人気の理由だ。逆に他の山々はほとんど登る人はいない。僕はラパス市街から堂々と見えるイリマニ山(6,439m)にも興味があったが、沢山あるガイド会社をあたっても他に誰も参加者がいなくてプライベートガイドを雇わざるを得なく断念。だが、プライベートの方が良い事を後で思い知ることになる。

というわけで少なくとも値段はお手軽なワイナポトシに申し込んだ。登山に必要なピッケル、アイゼン、プラスチックブーツ、ヘルメット、ジャケット等は全部込みの値段。旅行者でも敷居が低いのである。行程は2泊3日。しかも初日はただのトレーニング。実質一泊2日で登れてしまう山である。しかし後から思うと高度障害問題、氷河を含む山岳登攀と決してただの旅行者に気軽に薦められた内容ではない。

一日目
初日は朝にガイド会社前に集合。今回はオーストラリア人夫婦と同行することになった。
装備をバックパックに詰め込み、車でワイナポトシ山麓のベースキャンプへと向かう。

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パタゴニアのような何も無い風景が続く。

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ワイナポトシが近づいてきた。

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ベースキャンプ。この時点でもすでに標高4,800mだ。山小屋はきれいで快適だった。

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昼食後、氷河歩きの練習に向かう。

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氷河の末端部での練習。登ったり下りたり。

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垂直以上の氷壁を登ってみたり。
実際のワイナポトシ登山ではこんな事はしない。

小屋に戻ってからゆっくりと休憩。寒いのでひたすらコカ茶を飲んで談笑。他にもフランス人のグループがいた。

二日目
この日はベースキャンプからハイキャンプへと登るのみ。たった2~3時間の登山だ。だらだらおきて朝食。昼食。夜は寒さと尿意(お茶の飲みすぎか?)であまりよく寝れなかったが、午前中は少し寝て過ごした。昼食後登山開始。

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小屋のモップ犬は抱きついてきて可愛い。

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ハイキャンプまでは特に雪も無い。まあまあの急登ではあるが難しい登りではなかった。ただ、高所で、荷物があるので思ったよりもしんどかった。ゆっくりしたペースで2時間半程度でハイキャンプ(5,300m)に到着。

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ハイキャンプといってもここも小屋がある。ベースキャンプに比べてずいぶんクオリティは落ちるが十分だ。

今日の残り時間はのんびりして過ごした。しかし、頭痛と熱を出したときのような倦怠感といった高度障害らしき症状が現れたので、頭痛薬と以前他の旅人からもらったダイアモックスらしき薬を飲んだ。どっちが聞いたかは分からないが症状は比較的楽になった。
尿意はさらに酷くなり、何度もトイレに起きた。寒さは昨日の比ではなく、全く眠れなかった。もっと高級な寝袋が必要だった。装備の貧弱さについては旅行者の弱みである。

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ただ、月明かりに照らされた山々はきれいだった。

3日目
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深夜0時に起きて装備の点検そして午前1時には山頂へ向けて出発。ガイドは2人に付き1人付くと言うルールがあるため、昨日からガイドがもう一人登場した。オージーの2人と僕とでそれぞれにガイドがつき、アイザレン(クレバスなどに落ちたときの為、ロープでお互いを結び合う)する。
月が明るく、ライト無しでも歩けそうなくらいだ。持てる装備全てを着込んだ。小屋を出てすぐに氷河に取り付く。最初のうちは思ったほど寒くも無くてちょうどよかった。
昨晩から食中毒を食らった時のような卵臭のゲップがでるが、下痢どころか特に便意は無い。それ以外は体調は悪くない。ガイドの足元のみを見てゆっくり、ゆっくりと一歩ずつ歩いていく。二時間ぐらい歩いたところでガイドがオージーの2人のライトが見えないことに気付く。ガイドは自分のピッケルにザイルを結んで地面に固定し、下を見に行った。

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ラパスの明かり(実際はすり鉢上のラパスは見えないのでその周辺都市となる)

しばらくして2つの明かりが戻ってきた。どうやら一人はリタイアしたようである。嫁のジェイドが辞退したと思ったら、意外にも男のアランがリタイアしたようだ。一昨日のトレーニングでのジェイドの運動神経の悪さからして、一気に不安が増した。ガイドは一人しかいないので、一人が脱落すればもう一人も断念ということになる。

ザイルを結びなおし再出発。とにかく、余分なことに頭を使う酸素の余裕は無いので前の人の足元のみを見ながら歩くことと息することだけを考えて進む。ぽっかり穴を開けたクレバスの近くを何度も通り過ぎる。傾斜が急になってきて多少のピッケルワークも強いられるがまだ余裕だ。
徐々に寒くなっていき、止って休むとすぐに冷え切ってしまう。動いていても手先がかじかんでくる。ガイドがマッサージをしてくれる。

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稜線にでる登りではかなり急な登りで、それを登りきった時には反対側の何も無いラパス側の茶色い平野が見えた。反対側の山々しい景色とはえらい違いだ。

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太陽の光が地平線の色を変えつつある。山頂まで、日の出まであと少しだ。一番もりあがる時間である。しかし、ジェイドはもういやだと言い始めた。いやな予感の的中である。
 無理も無い。稜線は幅50cmにも満たない雪稜で、両サイドは切れ落ちている。いくらアイザレンしているからといっても一人落ちたら全員行くのではないかというような場所だ。
初心者でも登れる山と言うのはウソである。もちろんこんなところがあるとは複数のガイド会社で話しを聞いた僕でも聞いていない。

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山頂への道

恐怖で足がすくんでその幅50cmの稜線をまたいでしまっている彼女の為に足場をカットしたり、ロープを引っ張ったりガイドも試行錯誤していた。
この日は風があまりなく、僕はそれほど恐怖は感じなかった。彼女を説得して登らせる権利も無いしまたは撤退を決める勇気も無い。というかそこまで頭も動かない。ガイドに任せて稜線につっ立っていた。そこで僕らは日の出を迎えた。

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日の出と共に眼下にこれを登って来たのかと疑いたくなる氷河とクレバスが見えてくる。

あれから、多少進んだが、ガイドはやはり下山を決めた。ジェイドは泣き出す始末でもうガイドの手には負えない。ガイドはぶっきらぼうに最後尾にいた僕に戻れと合図をした。
ぼくは何も言わずに戻る。朝日に照らされた山々が綺麗だった。見たことも無い景色だったが感動は無かった。
後で聞くとここが6020m地点、山頂まであと10分だったという。

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登山家のビデオで見るかのような6,000m峰らしい光景である。

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もったいないがどんどん標高を下げる。

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今回一緒に6020m地点までがんばったJadecと。

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どんどん気温が上がってくる。

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クレバスがあちらこちらにぽっかり穴を開けている。

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ハイキャンプが見えてきた。

明るくなってから見る下りの景色は、こんなところを登ってきたのかという感じだった、淡々と登っていて気付かなかったが、思ったより起伏があり、沢山のクレバス、氷壁がある。暖かくなると雪が緩んで危険だからか、ガイドも不機嫌だからか、さっさと降りるように急かす。どんどん気温が上がり、ハイキャンプに戻るころには暑いぐらいだった。

ハイキャンプではガイドのみんなも今日ベースから登ってきた日本人のおじさん3人組ももうほとんど登ったようなモンじゃないかと元気付けてくれた。
ここまで下りてくるときは、ジェイドに対し、アランのアドバイス無しでは何もできないクセになぜ一緒にリタイアしなかっただとか、怒りの気持ちで一杯だったが、ようやく登山は運命共同体だから仕方ないことだという考えが芽生えてきた。「ごめん」という彼女にもそう言えた。だからもうゴメンはよしてくれ。

もちろん頭がクリアになったわけではない。初めてのガイド登山、初めての高山とも言える6000m峰への挑戦、そして初めての失敗、理不尽とも思えるその理由。僕にとってはかなり大きな傷となって残ってしまった。かといって同じ山にもう一度、というほどのものでもない。今回はメンバーが悪かったと言うことであきらめるしかないのだろう。それでも、初めて6,000mの稜線に到達し、そして、自分は行けたのだ。確実に。

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